皆さんは馬券を買う上で「クッション値」を参考にしているでしょうか?
クッション値は2020年の9月からJRAが公表するようになった馬場のクッション性を数値として表したものです。
これまでは良や重といった「馬場状態」や、芝の路盤やダートの路盤に水分がどれくらい含まれているかを示す「含水率」などが発表されていました。ここにもう一つ馬場に関する指標が新たに追加されたことになります。
ここでは「クッション値」がどういうものなのか、高いとどうなるか、低いとどうなるかや、何に影響するのか、予想への活用方法など詳しく解説していきます。
クッション値とは?
「クッション値」は馬場のクッション性を数値として表したものです。
これは競走馬が走行時に馬場に着地した際の反発力を数値化したもので、この数値が高いと馬場の反発力が高いということになります。
クッション値の測定には「クレッグハンマー」という測定器が用いられています。これは重りを馬場に落下させて衝撃加速度を測定するものです。
クッション値の意味は概ね以下のように解釈する事ができます。
クッション値 | 馬場のクッション性 | 馬場表層の水分状態 |
12以上 | 硬め | 乾燥気味 |
10~12 | やや硬め | やや乾燥気味 |
8~10 | 標準 | 標準 |
7~8 | やや柔らかめ | やや湿潤気味 |
7以下 | 柔らかめ | 湿潤気味 |
クッション値が高いとどうなる?
- 馬場は硬くなっている
- 馬場表層の水分状態は失われ乾燥している
- 馬場からの反発力が高いため、スピードに乗りやすく高速決着になりやすい
クッション値が低いとどうなる?
- 馬場は柔らかくなっている
- 馬場表層の水分状態は増え湿っている
- 馬場からの反発力が低いため、よりパワーが必要になりタフなレースになりやすい
クッション値の誤解に注意!
クッション値は誤解を招きやすい単語です。以下のように思う人も多いのではないでしょうか?
クッション値が高くなるにつれて馬場はどんどん硬くなるのって、違和感があるような…
「クッション」という言葉が羽毛、綿などが詰まったふかふかのクッションを想像しやすいため、「クッション値が高い→柔らかい」と覚えてしまいがちです。
これは誤りで、「クッション値が高い→硬い」が正解です。
以下は馬場以外の色々な参考クッション値の例です。これらを知っておくとイメージしやすくなるので見てみましょう。
体操での落下や転倒の衝撃を防ぐ体育マットのクッション値は「5」となっており低いことが分かります。
反対にボールがよく弾むようなテニスコート(砂入り人工芝)は「52」とかなり高くなっています。クッション値が高いと反発力が高いという事がよくわかる例となっています。
競馬場の芝馬場と近いものしては柔道場の畳が挙げられます。クッション値は「7」で標準の馬場と比べれば少し柔らかめですが、値としてはかなり近くなっています。柔道場も投げられたりした際に衝撃を防ぐように工夫されてます。
こうしてみると標準馬場のクッション値「8~10」は、競走馬の安全性と走りやすさを両立したものになっていることが分かりますね。
雨に影響されるクッション値
クッション値は馬場表層の水分状態に大きく影響され、含水率が高くなるほどクッション値は低くなる傾向にあります。
これは芝レースでは雨で地面が柔らかくなると、馬場が本来持つクッション性が失われるためです。
例として土曜日が良馬場で行われて、日曜日が不良馬場だった2024年の中山競馬場(アメリカジョッキークラブカップ(G2)の週)のクッション値の変化を見てみましょう
1/20(土曜) | 1/21(日曜) | |
クッション値 | 10.7 | 8.1 |
馬場状態 | 良 | 不良 |
(ゴール前/4コーナー) | 含水量11.0%/12.6% | 12.3%/13.8% |
土曜日には「10.7」だったクッション値は日曜日には「8.1」まで下がっています。降り続いた雨の影響で馬場の含水率が高くなったです。
ここまで一気にクッション値が変わる事は稀ですが、「含水率が高くなるほどクッション値は低くなりやすい」と覚えておきましょう。
この時の日曜日のメインレースは「アメリカジョッキークラブカップ(G2)」。
勝ったチャックネイトの上がり3Fは「37.6」、勝ちタイムは「2:16.6」とかなり時計のかかる馬場になりました。
芝の種類に影響されるクッション値
クッション値は開催が進むことで馬場が変化したり、雨などにも左右されますが、各競馬場の馬場よっても傾向があります。
札幌や函館で使用される寒冷な気候に強い「洋芝」は、細かい根がマット層を作ります。これによりクッションが効いて保水量が多いため、「クッション値が低くなる」傾向にあります。
反対にそれ以外の競馬場で使用されている「野芝」は地下ほふく茎(地下を横方向に這って伸びる茎)を形成しますが、マット層の洋芝より保水性が低いため「クッション値が高くなる」傾向にあります。
では、実際に「オール洋芝である札幌競馬場」と「野芝をベースに洋芝をオーバーシードした中山競馬場」と「オール野芝である新潟競馬場」の過去のクッション値を比較してみましょう。
23年・24年札幌競馬場(オール洋芝)のクッション値
札幌競馬場(23年・24年)の平均クッション値:7.5
24年(第1回) | 札幌競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 7.4 | 7.3 |
第3日・第4日 | 7.5 | 6.2 |
第5日・第6日 | 7.6 | 6.9 |
24年(第2回) | 札幌競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 7.7 | 7.8 |
第3日・第4日 | 7.5 | 7.8 |
第5日・第6日 | 7.7 | 8.0 |
第7日・第8日 | 6.9 | 7.5 |
23年(第1回) | 札幌競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 7.2 | 7.7 |
第3日・第4日 | 7.1 | 7.3 |
第5日・第6日 | 6.9 | 6.7 |
23年(第2回) | 札幌競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 7.4 | 7.8 |
第3日・第4日 | 8.5 | 7.6 |
第5日・第6日 | 8.6 | 8.7 |
第7日・第8日 | 8.1 | 8.5 |
札幌競馬場はオール洋芝のためクッション値は「やや柔らかめ」の割合が多めになっています。
24年新潟競馬場(オール野芝)のクッション値
新潟競馬場(24年)の平均クッション値:9.2
24年(第1回) | 新潟競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 9.5 | 9.0 |
第3日・第4日 | 9.0 | 9.0 |
第5日・第6日 | 9.1 | 9.4 |
第7日・第8日 | 9.1 | 9.4 |
24年(第2回) | 新潟競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 9.2 | 9.0 |
第3日・第4日 | 9.1 | 9.0 |
24年(第3回) | 新潟競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 9.2 | 9.1 |
第3日・第4日 | 9.1 | 8.9 |
第5日・第6日 | 8.8 | 8.9 |
第7日・第8日 | 9.5 | 8.8 |
24年(第4回) | 新潟競馬場土曜日 | 日曜日 | 月曜日 |
第1日・第2日 | 9.0 | 9.3 | – |
第3日・第4日 | 9.2 | – | 9.2 |
第5日・第6日 | 9.9 | 9.2 | – |
第7日・第8日 | 9.4 | 9.3 | – |
JRAの競馬場の中で唯一のオール野芝である新潟競馬場。
24年開催のクッション値は全て「標準」とかなり安定しています。
馬場が硬くなり過ぎないように「エアレーション」や「シャタリング」などの実施して、クッション性確保のための馬場整備が行き届いている印象です。
24年中山競馬場(野芝メイン+洋芝)のクッション値
中山競馬場(24年)の平均クッション値:9.6
24年(第1回) | 中山競馬場土曜日 | 日曜日 | 月曜日 |
第1日・第2日・第3日 | 10.3 | 10.2 | 10.1 |
第4日・第5日 | 10.7 | 10.1 | – |
第6日・第7日 | 10.7 | 8.1 | – |
24年(第2回) | 中山競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 8.5 | 8.8 |
第3日・第4日 | 9.1 | 8.9 |
第5日・第6日 | 8.1 | 9.4 |
第7日・第8日 | 9.4 | 9.7 |
24年(第3回) | 中山競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 10.4 | 10.3 |
第3日・第4日 | 8.5 | 9.2 |
第5日・第6日 | 9.2 | 8.2 |
第7日・第8日 | 9.3 | 9.6 |
24年(第4回) | 中山競馬場土曜日 | 日曜日 | 月曜日 |
第1日・第2日 | 10.4 | 10.2 | – |
第4日・第5日・第6日 | 9.3 | 9.9 | 9.5 |
第6日・第7日 | 10.2 | 10.0 | – |
第8日・第9日 | 9.4 | 10.1 | – |
24年(第5回) | 中山競馬場土曜日 | 日曜日 |
第1日・第2日 | 10.0 | 9.6 |
第3日・第4日 | 9.8 | 9.6 |
第5日・第6日 | 10.2 | 10.0 |
第7日・第8日 | 10.0 | 10.0 |
第9日 | 9.5 | – |
中山競馬場は野芝をベースとしていますが、寒さに弱い野芝を補うように洋芝をオーバーシード(既存の芝生に新しい種をまく作業)を行っています。
クッション値で良馬場のより詳しいコンディションを知る
では具体的にどういう時にクッション値を参考にすればいいでしょうか?
クッション値は良馬場でのコンディションを詳しく知る時に本領を発揮すると言われています。
今までは馬場状態は4段階(良・稍重・重・不良)で判断していました。しかし良馬場はその範囲が非常に広く、同じ良馬場でも馬場が柔らかめでパワーが必要だったり、馬場が硬くてスピードが出やすかったりと傾向が掴みにくいのが難点でした。
また、競馬の8割以上は良馬場で開催されているため、良馬場というだけでは得られる情報が少ないのがネックでした。
そこで馬場表層の状態を数値で知る事の出来るクッション値の出番というわけです。
以下はクッション値が発表されるようになった2020年~2021年の有馬記念当日のクッション値です。
年/タイム | (ゴール前/4コーナー) | 含水率クッション値 | 着順 | 馬名 |
2024 良 2.31.8 | 12.4/13.3 | 10.0 | 1着 | レガレイラ |
2着 | シャフリヤール | |||
3着 | ダノンデサイル | |||
2023 良 2.30.9 | 10.3/13.1 | 9.3 | 1着 | ドウデュース |
2着 | スターズオンアース | |||
3着 | タイトルホルダー | |||
2022 良 2:32.4 | 11.5/13.5 | 9.2 | 1着 | イクイノックス |
2着 | ボルドグフーシュ | |||
3着 | ジェラルディーナ | |||
2021 良 2:32.0 | 12.0/12.4 | 9.6 | 1着 | エフフォーリア |
2着 | ディープボンド | |||
3着 | クロノジェネシス | |||
2020 良 2:35.0 | 9.6/10.1 | 9.8 | 1着 | クロノジェネシス |
2着 | サラキア | |||
3着 | フィエールマン |
2024年はクッション値が「10.0」になっており例年に比べて硬めの馬場で開催されていることが分かります。
冬場の中山は洋芝がオーバーシードされタフな傾向になりやすいですが、この年は例年よりスピード適正が求められる馬場状態だった推測されます。
血統やこれまでの成績などから馬場適正に合った馬を評価するなどして、予測に役立てましょう。
クッション値と含水率との違いは?
クッション値と同じく「含水率」も数値として表され、馬場の水分状態がわかる指標です。
クッション値との違いは「測定に芝部分を含んでいるかいないか」です。
クッション値が芝部分を含んだ馬場表層の計測値に対して、含水率が表面よりやや下部分の路盤の層になっている部分を測定しています。
含水率は各競馬場の路盤の材料によって違いが出て、クッション値は各競馬場の芝の種類によって違いが出ます。
芝の状態まで総合的に見たい場合はクッション値を参考にするといいでしょう。
クッション値
クッション値のデメリット
良や重といった「馬場状態」は各レースごとに担当者が実際に馬場を歩いて総合的に判断して、その都度発表します。
一方でクッション値は開催当日の8時頃に測定したものが9時30分頃に発表されますがこの1回のみです。
そのため、ずっと雨が降り続けて馬場表層の水分状態が変わった場合、レース後半のクッション値は発表されたものから更に低くなっている場合があります。
このような雨による馬場状態は、その都度更新される稍重、重、不良といった「馬場状態」から予測するといいでしょう。また雨による路盤の変化は含水率などを見るのも効果的です。
クッション値の確認方法
「クッション値」についてはJRAの公式ホームページから確認することができます。
JRA公式ホームページの「競馬メニュー」→「馬場情報」から開催中の競馬場を選択すると、当日の芝のクッション値や含水量、芝の状態などが公表されています。
また、過去のクッション値を確認したい場合は「馬場情報」のページ最下部「過去の含水率・クッション値」から見る事ができます。
まとめ 日本の馬場管理技術は優秀でコンディションはかなり安定している
馬場は競走馬の安全において非常に重要な要素です。そのためJRAも馬場管理には非常に気を使っており、クッション値に注目してみても馬場状態はかなり安定している事が分かります。
馬場に小さな穴を開けて通気性を上げる「エアレーション」や芝馬場に切り込みをいれ馬場をほぐす「シャタリング」などを適時行いクッション性を高めています。
こういった努力もあり現在の競馬では、クッション値が12以上の硬すぎる馬場になることはほとんどありません。
とは言え、様々な要因でクッション値は開催日ごとに変化します。硬い馬場が得意な馬や柔らかい馬場が得意な馬など、その時のクッション値を確認して予想に取り入れてみてはいかがでしょうか
最後まで読んで下さりありがとうございました。